施設の費用
親の施設の費用を実家の売却でまかなうなら|手取りの出し方と、売った翌年に上がることがある介護保険料
この記事の結論
- 手元に残るお金は売った金額 − 売るための費用(仲介手数料・印紙税など)− 税金です。2,000万円で売り、3,000万円控除が使えれば、約1,926万円が残ります(計算例)。
- 3,000万円控除が使えないと、同じ2,000万円でも税金が約371万円かかります。まず控除が使える期限を確かめてください。
- 親が特養などで食費・部屋代の負担軽減(負担限度額認定)を受けているなら、売った代金が口座に入って預貯金の基準を超えた翌月から軽減が外れます。施設に払う額そのものが増えるので、まずここを確かめてください(負担限度額認定が外れるとき)。
- それまで住民税がかからなかった親は、控除で税金が0円になっても、翌年度に住民税の均等割がかかることがあります。かかると、介護保険料は「住民税がかかる人」の段階に上がります。住民税がかからないかどうかは、控除する前の利益で判定するためです。
- 介護サービスの自己負担の割合(1〜3割)と、後期高齢者医療の窓口負担の割合(1〜3割)は、控除したあとの利益で判定します。利益が3,000万円以下で控除しきれれば、売っても上がりません。ただし住民税がかかるようになると、介護や医療の1か月の上限額の「住民税非課税」の区分からは外れます。
手元に残るお金は「売った金額 − 売るための費用 − 税金」
実家を売っても、代金がそのまま使えるわけではありません。売るときに払う費用と、翌年に納める税金を引いた残りが、施設の費用にあてられるお金です。
| 売るための費用 | 金額の決まり |
|---|---|
| 仲介手数料(不動産会社に仲介を頼んだ場合) | 国が上限を決めています(下の表) |
| 売買契約書の印紙税 | 1,000万円を超え5,000万円以下なら1万円(2027年3月31日までに作る契約書の軽減後の額。本来は2万円) |
| 住宅ローンの抵当権を消す登記(ローンが残っていた場合) | 登録免許税は土地・建物1つにつき1,000円(司法書士に頼めば報酬が別にかかります) |
| 測量・家の取り壊し(必要な場合) | 家や土地によって大きく違います |
このうち、仲介手数料・売主が負担した印紙税・測量費・取り壊し費用は、税金の計算でも「譲渡費用」として差し引けます。修繕費や固定資産税など、家を持っていた間の費用は差し引けません。
出典:国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」(資料を見る)・「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」(資料を見る)・「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」(資料を見る)(令和8年4月1日現在法令等)/e-Gov法令検索「登録免許税法」別表第一 一(十五)(資料を見る)
仲介手数料は、国が決めた上限「以内」
不動産会社が受け取れる仲介手数料は、国土交通大臣の告示で上限が決まっていて、それを超えて受け取ることは禁止されています。上限は売った金額を200万円・400万円で区切り、それぞれに5.5%・4.4%・3.3%(消費税込み)を掛けて合計します。
| 売った金額 | 仲介手数料の上限(消費税込み) |
|---|---|
| 500万円 | 23万1,000円(800万円以下の特例で、最大33万円) |
| 800万円 | 33万円 |
| 1,000万円 | 39万6,000円 |
| 2,000万円 | 72万6,000円 |
| 3,000万円 | 105万6,000円 |
売った金額が400万円を超えるときは、合計が「売った金額 × 3% + 6万円」に消費税を足した額と同じになります(告示の書き方ではなく、計算を短くした式です)。
800万円以下の家や土地は、2024年7月1日からの決まりで、仲介にかかる費用を考えて上の表を超え、33万円(30万円の1.1倍)まで受け取れます。上限より高くなる場合は、仲介を頼む契約のときに説明を受け、合意してから決まります。
出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第46条(資料を見る)/国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」第二・第七(令和6年国土交通省告示第949号・2024年7月1日施行)(資料を見る)・「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」(資料を見る)
税金は、3,000万円控除が使えるかで数百万円変わります
税金がかかるのは、売った金額ではなく利益です。売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除 = 税金がかかる利益で計算します。親が住んでいた家なら、条件に合えば利益から最大3,000万円を差し引けます。
例:親が40年前に買った家を、2026年に2,000万円で売る。買ったときの金額がわからないので取得費は売った金額の5%(100万円)。仲介手数料72万6,000円・印紙税1万円。
利益 = 2,000万円 −(100万円 + 72万6,000円 + 1万円)= 1,826万4,000円
| 3,000万円控除が使える | 使えない(期限切れなど) | |
|---|---|---|
| 税金 | 0円 | 約371万円(利益の20.315%) |
| 手元に残るお金 | 約1,926万円 | 約1,555万円 |
- 持っていた期間が売った年の1月1日で5年を超えていれば、税率は20.315%です。5年以下なら39.63%です。
- 10年を超えて持っていた家なら、3,000万円控除と一緒に、税率を下げる特例(控除後の利益6,000万円以下の部分は14.21%)も使えます。
- 税金は売った翌年に納めます。代金が入った時点では、税金の分を使わずに残しておいてください。
- 控除が使えるのは、売った翌年に確定申告をした場合だけです。
親が住まなくなった家の3,000万円控除は、住まなくなってから3年たつ日が属する年の12月31日までに売ることが条件です(2026年5月に施設に入って住まなくなったなら、2029年12月31日まで)。期限は実家を売る期限チェックで確かめられます。買ったときの金額がわからないときの計算は「取得費がわからない実家を売るときは「売った金額の5%」」にまとめています。
出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」(資料を見る)・「No.3302 マイホームを売ったときの特例」(資料を見る)・「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」(資料を見る)・「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」(資料を見る)(令和8年4月1日現在法令等)。計算例の金額は、公開されている率と上限額で出した概算です
売った翌年に上がるもの・上がらないもの
親が生きているうちに親が売ると、利益は親の所得になり、翌年の住民税・介護保険・医療保険の判定に使われます。ここで注意したいのは、判定によって、3,000万円控除を「引く前」の利益を使うものと「引いた後」の利益を使うものがあることです。
住民税がかからない人(非課税)かどうかは、控除を引く前の利益を足して判定します。そのため、それまで住民税がかからなかった親は、控除で税金が0円になっても、利益が非課税の基準を超えれば、住民税の均等割(年数千円)がかかります。
以下は、利益が3,000万円以下で控除しきれた場合です。
上がる・外れることがある(住民税がかからないことが条件のもの)
- 住民税:かからなかった人が、均等割がかかるようになることがある
- 介護保険料:「住民税がかからない人」の段階から「かかる人」の段階に上がる
- 特養などの食費・部屋代の負担軽減:外れる(売った代金で預貯金の基準を超えれば、その月の翌月から。住民税がかかるようになっても外れる)
- 介護サービスの1か月の上限額(高額介護サービス費):世帯全員が非課税の区分(24,600円)から外れ、44,400円の区分になる
- 医療費の1か月の上限額(後期高齢者医療の高額療養費):「住民税非課税」の区分から外れる
- 後期高齢者医療の保険料の軽減(均等割の7割・5割・2割の軽減):外れることがある
上がらない(控除したあとの利益で判定するもの)
- 介護サービスの自己負担の割合(1〜3割)
- 後期高齢者医療の窓口負担の割合(1〜3割)
- 後期高齢者医療の保険料のうち、所得に応じてかかる部分(所得割)
もともと住民税がかかっていた親なら、介護保険料の段階は控除の後の利益で決まるので、控除しきれれば変わりません。逆に、控除しきれずに利益が残ると、残った分は上の全部の判定に入り、自己負担の割合や窓口負担も上がることがあります。
目安:65歳以上で、年金が年140万円・ひとり世帯の親(国の標準で第3段階)。売って住民税がかかるようになると第6段階になり、全国平均の基準額で計算すると介護保険料は年約5.1万円 → 約9.0万円。後期高齢者医療の保険料の軽減が外れる分も、これに加わることがあります。
介護保険料の額は市区町村ごとに違います。2026年に売った場合に影響が出るのは2027年度の保険料で、国は2027年度からの段階の決め方を見直すかどうかを話し合っています(2026年9月時点)。上の目安は2024〜2026年度の国の標準で計算したものです。
- 影響が出る時期:住民税・介護保険料・後期高齢者医療の保険料は売った翌年度の分(実際に納め始める月は、市区町村から届く通知で確かめてください)、介護の自己負担の割合と後期高齢者医療の窓口負担の割合は売った翌年の8月から1年間。
- 親が75歳未満で国民健康保険に入っている場合も同じ形で、保険料の所得割は控除の後、軽減の判定は控除の前の利益を使います。
土地を公共事業に売った人の例ですが、自治体の案内でも、年金140万円で住民税がかからなかった人が、譲渡所得2,000万円を全額控除した翌年に「市・県民税の均等割がかかります」と説明されています。親の場合にどうなるかは、売る前に市区町村の住民税の窓口で確かめるのが確実です。
出典:e-Gov法令検索「地方税法」附則第34条(資料を見る)・「介護保険法施行令」第22条の2・第22条の2の2・第38条(資料を見る)・「高齢者の医療の確保に関する法律施行令」第7条・第14条・第15条・第18条(資料を見る)・「国民健康保険法施行令」第29条の7(資料を見る)/厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1532」(2026年7月31日)(資料を見る)・「第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について」(全国平均の基準額 月6,225円)(資料を見る)・社会保障審議会介護保険部会 第136回 資料1(2026年9月18日)(資料を見る)/(例として)飯田市「公共事業のために土地等を提供した場合の市・県民税は?」(資料を見る)
特養などの食費・部屋代の負担軽減が、売った代金で外れる仕組みは「実家を売却すると負担限度額認定が外れることがあります」にまとめています。
施設の費用の目安(国の数字)
| 施設 | 1か月の目安 | 含まないもの |
|---|---|---|
| 特養など(ユニット型個室・負担軽減なし) | 約11万円(食費4.7万円+部屋代6.3万円) | 介護サービスの自己負担・日用品など |
| 介護付き有料老人ホーム | 平均 約26.2万円 | 介護・医療の自己負担 |
| 住宅型有料老人ホーム | 平均 約11.8万円 | 介護・医療の自己負担 |
- 特養などの金額は、国が決めた「平均的な費用」(基準費用額・2026年8月から)です。実際の料金は施設との契約で決まります。
- 有料老人ホームの平均は2024年の国の調査で、家賃・共益費・食費などの合計です。介護付きでは31.0%の施設が前払金(入居一時金)を取っています。
目安:上の例で手元に残る約1,926万円 ÷ 介護付き有料老人ホームの平均 約26.2万円 = 約73か月(約6年)分。介護の自己負担・医療費は含まず、親の年金も考えていない計算です。
出典:厚生労働省「介護保険最新情報 Vol.1506」(2026年5月29日)(資料を見る)・「有料老人ホームの現状と課題について」(有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会 第3回 参考資料3・2025年5月19日。令和6年度老人保健健康増進等事業の調査)(資料を見る)
誰が売るかで、お金の行き先が変わります
- 親が生きているうち:家の名義が親なら、売るのは親です。利益は親の所得になり、上の「翌年に上がるもの」も親に起きます。親が認知症で契約できないときは、成年後見人が家庭裁判所の許可を得て売ります(親が認知症で施設に入ったあと、実家を売るには)。
- 親が亡くなったあと:家を相続した人が売り、利益は相続した人の所得になります。遺産を分ける前に売ったときは、原則として法定相続分の割合でそれぞれが申告します。
出典:国税庁 質疑応答事例「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」(資料を見る)
売る前に確かめること
- 3,000万円控除が使える期限(実家を売る期限チェック)
- 売った翌年、親の住民税がかかるようになるか(市区町村の住民税の窓口)
- 親が特養などの負担軽減(負担限度額認定)を受けているか。受けていれば、売った代金が入った翌月から外れ、食費・部屋代が上がることがあります
- 仲介手数料・印紙税・税金を引いて、いくら残るか(税金の分は翌年まで残す)
この記事は、公開されている国の資料をもとにした一般的な説明です。実際の税額や、特例が使えるか、保険料がいくらになるかは、税務署・税理士・市区町村の窓口に確かめてください。